マンスリーマンションの実力

不動産の仲介をするには宅地建物取引業として登録しなければなりませんが、業者として認定されると、物件売買を仲介する際に、買い手、売り手の双方からそれぞれ3%程度の手数料を得ることができます。
たった3%といっても、不動産は1件あたりで扱う金額がほかの商品に比べるとはるかに大きな金額ですので、たとえば4000万円の土地の売り手側の伸介を、専属で取り扱うことができれば、120万円くらいの収入となります。
売りと買いを一人でできれば、合計6%、240万円の収入になるわけです。
おじさんたちは、この物件売買の仲介に入りたくて町中をうろうろ歩きまわっているのです。
そして雑談の中でぽろっと出てくる不動産の売買の話を捕まえては、その不動産を買ってくれる、あるいは売ってくれるような相手方を探して歩いているのです。
しかし、毎日回っていても、そうそう世の中にうまい話ばかりがころがっているわけではありません。
俗に不動産業界では、この売買案件の仲介について、「せんみつ」という言葉を使います。
つまり、1000件くらいの売買案件を取り扱ってやっと3件くらいの成約があるという意味です。
おじさんたちは一人でやっているので、1年間通しで4、5件も取れればなんとか生活ができるわけです。
ただし、従業員を雇ってしまったりすれば給料を払わなくてはなりませんし、オフィスなどの固定費もかかってしまいます。
彼らはこうした無駄な経費を省くために、自分のオフィスは持たずに、さりとて自宅にばかりいたのでは奥さんに嫌な顔をされますので、町に出て、さまざまな人たちとの交流・雑談を通じて、商売の種を見つけ出そうとしているのです。
彼らの雑談は、ただの雑談ではなく、仕事を取るための潤滑油となるコミュニケーションなのです。
たとえば、自分のところに土地を売りたいお客さんがいれば、これを買ってくれそうな町の大地主の家に行って、「日一那さん、いい土地が出ましたよ。
二度と出ない掘り出し物ですよ」と、いつもの決まり文句で迫るのですが、大地主といえどもいつでも買ってくれるというわけではありませんので、だめならその足で、知り合いの業者のところに行きます。
その業者が、「買い」のお客さんを持っていれば、ここで話をつなげることが可能となります。
彼らが独自に築く情報網がいざというときに役立つわけです。
電話一本ですむ話じゃないか、と思う人もいるでしょう。
しかし、不動産屋の世界はひじょうにドメスティックでウェットな世界です。
誰よりも義理人情を大切にし、日々の交流を深めておかないと、小さな町の中で生き残ってはいけません。
彼らは日々、自らの情報アンテナを張り巡らしていますが、たとえば町でめったにない大型の取引があるときなどは大変なことになります。
買主、売主を直接知っていればもちろん、知らなくても物件を知ってさえいれば、「その物件情報は、自分が取扱業者に口をきいたことがある」「自分が売主に昔持っていったことがある」などと、あらゆる屈理屈をつけて、本件についての仲介業者の一人に加わろうとします。
業界ではこうした業者のことを、売りと買いの間に挟まろうとすることから「アンコ業者」などと呼びますが、3%の取引手数料のうちの一部でも取って、自らの生計の足しにしようとするわけです。
したがって、実際の契約締結の場になると、取扱業者が7社も8社も出てきたりする珍妙な光景も、不動産仲介の世界ではよく見られることです。
こうしたときのために、彼らは自宅で椅子に座っていることはせずに、常にいろいろな人と直接会って、無駄話でも何でもよいから、とにかくコミュニケーションを取っておこうとするのです。
D不動産の社長としても、こうして会社に「おひとり様業者」を出入りさせておけば、ときおり良い情報が舞い込むことがあるので、勝手にお茶を飲み、会社のテレビで高校野球を見ていても、好きにさせているのです。
町の不動産屋の仕事さて、おひとり様業者はさておき、社員まで雇っているD不動産の日常業務は何をやっているのでしょう。
彼らの日々の収入は、町内にあるマンションやアパート、駐車場の管理が主なものです。
マンションやアパートでは日々生じるさまざまなトラブルに対処します。
ちょっとした機器の故障などの設備のチェックから共用部や給水タンクなどの清掃、住民間のトラブルの処理など、その業務は多岐にわたります。
ただ、彼らが直接扱う業務はあまりなく、管理物件で日々生じる「すべった、ころんだ」の部分は、一時的に連絡を受けた内容をふまえて、それぞれの専門業者に指示を与える役割を果たしています。
ただし、これらの管理に伴う収入はあまり多額のものではありません。
せいぜい大家の家賃収入の数%程度が一般的です。
それでいて、トラブルはしょっちゅう起こりますので、あまり採算の良いビジネスとはいえません。
彼らの収入を支えるもう一つの業務が借家人やテナントの入れ替わりに伴う手数料ビジネスです。
町内にはさまざまな店舗やオフィスがあります。
特に物販や飲食などの商業店舗は比較的移り変わりが激しい業種ですので、ちょっと流行ったレストランでも5年以上続くお店は少なく、テナントの入れ替えは頻々に生じます。
またマンションやアパートなどの住居系でも、春や秋には卒業や転勤などで借家人の入れ替えが多くなります。
彼らはテナントや借家人が出ていくときの、原状復旧作業(テナントが入る前の貸室の状況に戻すこと)の差配から、解約手続きの処理、新規のテナントや借家人の誘致などに活躍します。
そして、新規のテナントや借家人を誘致したときには通常家賃の1カ月分が彼らの取り分となります。
駐車場の場合も仕組みはまったく同じです。
もっとも、建物がありませんので、テナントの退去に伴う原状復旧の手伝いや新規テナントが入居する際の入居工事の斡旋などに伴ううまみはありませんが、一方で利用者同士のトラブルなども少ないので管理は比較的ラクともいえます。
また、解約ではなく、契約を更新する場合には、テナントや借家人から更新料を取りますので、この手続きを代行することで、通常の更新料1カ月分の半分、0・5カ月分を収受するのが一般的です。
この契約更新はおよそ2年程度で発生しますので、これもちょっとした収入になるわけです。
これらが彼らの基礎となる収入です。
D不動産でも、町中のマンション、アパート、店舗、小型のオフィスや駐車場などを管理することで、管理報酬を得、これらの施設のテナントの入れ替えや契約の更新で、仲介報酬や手続き料を加えることで、社員を雇い、オフィスを構えることができているのです。
これらの業務を毎日地道に積み上げて生きているのが、町の不動産屋です。
不動産の管理運営業務とは、このように派手な部分はまったくない、毎日コツコツと日常の仕事をこなしていくことが主体となります。
C子さんが入社当初想像していた、はつらつとした会社のイメージとは程遠いかもしれませんが、着実に収益を上げていく農耕民族系の仕事なのです。
D不動産の社長は毎日いろいろな人と会い、会話する中で、新しい管理物件を受託するチャンスを探して歩き回っていたのです。
これらのインフラ収入は着実ではありますが、社長が毎日どんなに動き回ったところで、市内でそんなに新しい物件が続々建設されるようなことはありません。

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